2019年3月26日火曜日

本レビュー:匂いの人類学

すごく面白い本だったので紹介します。



ボリュームのある本で、内容も濃く、今まで語り継がれていた古典的な匂いについての逸話を再考する機会を与えてくれた本。

さあ。。。ちょっと馬鹿っぽい質問だけど。

嗅覚、片耳の聴力、左足の小指のうちいずれかを永久に失うとしたら。どれがいちばん受け入れがたいか。

結果は・・・


嗅覚と答えた人が約半数! だったそうです。

まあ、どれも受け入れがたいよ。どれも。

子供がまだ小さかったときに、私は2週間ほど嗅覚を失った。
副鼻腔炎だったのだけど、とにかく食べるご飯食べるご飯、まるで砂をかむようで、さっぱり何も味がしない。

こんなに味気ない、無味乾燥って言葉が当てはまることもあるまい。何食べたって一緒なの。味がないから。という体験をしたので、嗅覚があることへ感謝しつつ、鼻がもどってよかったと安堵した。

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私が、味覚が過大評価されていると考える理由がもうひとつある。私達は風味を口のなかだけの感覚として味わうことに慣れている。ゆえに、ふだんの会話では、味と風味という言葉を同じ意味で使う。 
すると、実際の風味は味と匂いが混じり合ったもので、それがあたかも単純なものに思えるのは錯覚に過ぎない、ということを忘れがちになる。さらに、言語がこの錯覚に輪をかけている場合もある。 
たとえば、味と風味をひとつの言葉で表す言葉、スペイン語(sabor)ドイツ語(geschmack)中国語(wie)もある。舌は不相応に高い評価を受けていると私は思う。(匂いの人類学P134)
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私もそう思う(笑)だけど、舌だって、評価をくれ!って主張したわけじゃないのにね。

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一般に認められている匂いの影響力は、おもに暗示のちからに起因している。
たとえば、オフィスがかび臭いのを有毒カビのせいだと思いこむような負のプラシーボ効果は、シックハウス症候群を悪化させる可能性がある。他方で、アロマテラピーの流行は正のプラシーボ効果で説明できる。
アロマテラピーを利用する理由のひとつは、気分を高めることにあると言われている。たとえばラベンダーには一般的にリラックス効果が、ネロリには興奮作用があるといわれている。だが、最近の調査で正のスピンによって、こうしたラベンダーとネロリの効能を完全に逆転しうることがわかった。ラベンダーの香りには、リラックス効果があると説明すると、被験者は実際にリラックスし、心拍数や皮膚コンダクタンスの変化が測定された。 
ところが、興奮作用があると説明すると・・・アブラカタブラ・・・被験者は本当に興奮し、それが測定結果に現れたのだ。ネロリの場合も同様の逆転現象が起こった。アロマテラピーで正のプラシーボ効果を起こすには、ちょっと手を振りさえすればいいのだ。
匂いの人類学P130 

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時々、すごく何かに反応してしまう人がいるのがびっくりしてしまう。

何か目にしたり、習ったりしたことがそのまま反応としてでるのだ。えええ! そんなに!? と思うくらい。

この書かれていることはうすうす感づいていた。ラベンダーかいだからといってただちに眠くなったりしていたら、社会生活は送れない。ましてや精油販売をしている私がいちいちそんな効果に左右されていたら仕事にならない。

興奮系でも同じです。セラピストさんや講師の先生もですね。いちいち左右されていたら仕事になりません。

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また、映画ににおいをつけるプロジェクトに関して、相当長く語っている「スメロビジョン」と「アロマラマ」に関して。

これはすごく頑張ったのだけど、結果、定着はしなかったということが読み取れた。

裏にいろいろな(映画より面白そうな)ドラマがあるのだけど、結局、匂いを使ったあと、ぱっと次の匂いにスイッチするのが苦労したということ。最終的にいくつも香料をつかうと混ざりすぎておかしなことになり、不評だったそう・・・

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私が面白い!と思ったのは・・・
匂いに関する仕事をしている人なら誰もがしっている
「失われた時を求めて」プルーストの一説
マドレーヌを紅茶にひたして・・・のくだり。

ばっさりぶった切っていました(笑)

匂いに記憶を呼び覚まされるとしても、たいていの人はふやけたマドレーヌと格闘したりはしない。

だ、そうです(笑 面白い。ほんとだよね。ふつうなら、

こうした記憶は容易に思い出されるものだ

からだそうです。

たしかに、匂いと記憶で、あれなんだっけあれなんだっけ???? って格闘することは少ない。ぱっとかいでパッと思い出す。覚えていたことすら忘れている出来事も、そのにおいでぱっと匂いの引き出しがあくのだ。


そして最後

ニューヨークのゴシップを集めたブログ(gawker)より。

公明正大なやりかたで匂いのシティマップを作った
Gawkerは読者のレポートをまとめて、インタラクティブなニューヨーク・シティ・サブウェイ・マップを作った。
悪臭がカラフルなアイコンで表示される仕組みだ。(悪臭アイコンは10こある。)
八番街34丁目駅でACEの列車をまっているとどんなにおいがするか。 
「何かの死体が腐った匂い、屋外便所の古い糞、新しい糞、下水、アスパラガスを食べたあとの小便、腹が減った婆さんの息、へどみたいな異臭」

 ちょ・・・これ以上の表現ってある!? 私はすぐめもりましたよ!!


そして本当に最後ですが、この本の著者の力量もさることながら、翻訳者の勅使河原まゆみさんもすばらしいです。

手をぬかない緻密な翻訳。本当に丁寧に、わかりやすく伝わりやすく訳していて、違う文化圏に住んでいる私にもすっと入ってきます。

これだけ面白い本、へんな翻訳者が適当にやくすと、魅力が1%以下になっちゃうんです。いくつもそんな本をしっています。この本が勅使河原さんにやくしてもらえて本当に本当によかったと思います。(知らないかたですが、ほんとうにあってお礼をいいたいくらいです)